徒然草(第29段~第55段)




しづかに思へば(第29段)

【冒頭部】
しづかに思へば、よろづに過ぎにしかたの恋しさのみぞせんかたなき。

【現代語訳】
静かに考えてみると、すべてにつけて過ぎ去ってしまった昔の恋しさばかりは、どうにもしかたないものである。
人が寝静まって後、(秋の)夜長の慰みに、なんということもない道具類を整理して、残しておくまいと思う反古などを破りすてる中に、今はこの世に亡き人が文字を書きちらした(反古)だの、絵などを書き興じた(反古)などを見いだしたのは、ただもう(その人の生きていた)その当時のような心持ちがするものだ。(亡き人はいうまでもなく)現在生きている人の手紙でさえも、年月がたって、(この手紙をもらったのは)どんなときで、いつの年のことであったろうと思うのは、感慨深いものであることだ。(手紙や絵ばかりでなく、故人が)常に使いなれた道具類なども、無心であって、いつまでも変わらず、長く残っているのは、たいそう悲しい思いをさせる。

【語句】
よろづに・・・万事に。すべてにつけて。
過ぎにしかた・・・過ぎ去ってしまった昔。
恋しさのみぞ・・・恋しさばかりは。
せんかたなき・・・すべき方法がない。しかたない。
長き夜・・・秋の長い夜。
すさび・・・なぐさみ。もてあそび。
なにとなき・・・①格別にどうということはない、②なにかにつけて。ここは①。
具足・・・①物がそろっていること、②道具、③武具・甲冑。ここは②。
とりしたため・・・整理して。「したたむ」は、①整理する、②用意する、③書きしるす。ここは①。
残しおかじ・・・残してはおくまい。
亡き人の・・・今はこの世にない人が。
手ならひ・・・字を書きちらし。
そのをり・・・亡き人が生きていた当時。
このごろある人・・・現在生きている人。
文だに・・・手紙でさえも。
あはれなるぞかし・・・感慨深いものであるよ。
手なれし・・・用いなれた。
心もなくて・・・無心で。
いと悲しい・・・たいそう悲しい思いをさせる。感傷的な気持ちにさせる。





雪のおもしろう降りたりし朝(第31段)

【冒頭部】
雪のおもしろう降りたりし朝、人のがり言ふべき事ありて文をやるとて、

【現代語訳】
雪が趣深く降った朝、人のもとへいってやらねばならないことがあって、手紙を書こうと思って、(用件だけを書いて)雪のことは書かなかった、その返事に、「この雪を(あなたは)どうみるかと、ひと言もおっしゃらないほどの、無風流な人のおっしゃることを、お聞き入れすることができましょうか。できはいたしません。ほんとにほんとに情けないお心です」と書いてあったのは、興味深いことであった。
今はもうなくなった人であるから、これほどのちょっとしたことも忘れられない。

【語句】
人のがり・・・人の所へ。
いかが見ると・・・この雪をどう見るかと。
のたまはせぬほどの・・・お書きにならない程度の。
ひがひがしからん人の・・・ひねくれた人の。
おほせらるる事・・・おっしゃること。
かへすがへす・・・①繰り返し繰り返し、②まったく、③くれぐれも。ここは②。





九月二十日のころ(第32段)

【冒頭部】
九月二十日のころ、ある人にさそはれたてまつりて、

【現代語訳】
九月二十日のころ、ある人のお誘いをお受けして、夜の明けるまで月を見て歩きまわったことがありましたが、(その人は途中で)ふと思い出しなさる所があって、(供の者に)取つぎを請わせて(その家に)おはいりになった。荒れている庭が(草の)露でいっぱいであるうえに、とくに用意したとも思われない香のにおいが、しんみりとかおって、(この家の主人が)世間から遠ざかってひっそりと住んでいるようすが、いかにもしみじみと心を打つ。(ある人は)ほどよい時間で出ておいでになったが、(私は)やはりあたりのようすが優雅に思われて、しばらくようすを見ていたところが、(この家の主人は)出入り口の開き戸を少し開けて、月を見ているようすである。(もしも、客を送り出すと)そのまますぐに、戸をしめて家の中にはいってしまったのであったなら、どんなに物足りなかったことであろうに(と思われた)。(この主人は)客の帰ったあとまで、見ている人があるとは、どうして知っていよう、知ってはいないにちがいない。このような優雅なふるまいは、まったく平素の心がけによるものであろう。その人は、その後まもなく亡くなってしまったと聞きました。

【語句】
さそはれたてまつりて・・・おさそいを受けて。
月見ありく事侍りしに・・・月を見て歩きまわったことがありましたが。
おぼしいづる所・・・ふと思い出しになる所。
案内させて・・・お供の者に取りつぎを求めさせて。
わざとならぬ匂ひ・・・とくにしたというような、わざとらしいところのない香のにおい。いつもたきこめてあるにおい。
しのびたるけはひ・・・世間から遠ざかってひっそりと住んでいるようす。
ものあはれなり・・・しみじみとした感じが深い。
よきほどにて・・・ほどよい時間で。
事ざま・・・①事のようす、②心のようす。ここは①。
優に・・・優雅に
やがて・・・すぐに。そのまま。
かけこもらましかば・・・戸をしめかけがねをかけて家の中にはいってしまったら。
くちをしからまし・・・どんなに物足りなかったであろうに。
跡・・・人を送り出したあと。
いかでかしらん・・・どうして知ろうか、知りはしない。
朝夕の心づかひ・・・ふだんの心がけ。
聞き侍りし・・・聞きました。





五月五日、賀茂の競べ馬を(第41段)

【冒頭部】
五月五日、賀茂の競べ馬を見侍りしに、

【現代語訳】
五月五日に、賀茂神社の競馬を見物しました時に、(自分たちの乗った)車の前に民衆が立ちふさがっていて見えなかったので、めいめい車から降りて馬場のさくのそばに寄ったけれども、(その辺は)ことに人が多くこみ合っていて、おし分けてはいりこめる方法もない。こうしたおりに、向こうにある棟の木に、法師で、(木に)登って枝にまたがって見物しているものがあった。木につかまりながら、ひどく居眠りをして、今にも落ちそうになる時に目をさますのがたびたびであった。これを見ている人が、潮笑したり、あきれたりして、「天下の大ばか者だなあ。あんなあぶない枝の上で、安心してどうして眠っているのであろうよ」というので、私が心にふっと浮かんだままに、「われらの死の到来は、今すぐやってくるかもしれない。それを忘れて、見物して一日を暮らす、そのおろかなことは、(木の上の僧よりも)いっそうまさっているものなのになあ」といったところ、前にいる人々が、「ほんとうにそうでした。もっともおろかでございます」といって、みんなうしろをふりかえって、「ここへおはいりなさいませ」といって、場所をあけて呼び入れました。このくらいの道理は、だれが思いつかないことであろうか、だれだって思いつくことであるが、(競馬見物という)時が時であったので、思いがけぬ気持ちがして胸にこたえたのであろうか。人は非情の木や石ではないので、時によって、なにか物に感じることがないものでもない。

【語句】
雑人・・・身分の低い者。民衆。
埒・・・馬場の周囲のさく。
分け入りぬべきやうもなし・・・おし分けてはいりこめる方法もない。
向かひなる・・・向こうにある。
また・・・枝
ついゐて・・・またがっていて。「ついゐる」は「つきゐる」の音便。①ひざまづく、②とまっている。ここは②。
いたう・・・①はなはだしい、②すばらしい。
落ちぬべき時に・・・今にも落ちそうになる時に。
あざけりあさみて・・・嘲笑したり、あきれたりして。
しれもの・・・ばか者。
ねぶるらんよ・・・どうしてねむっているのであろうよ。
今にもやあらん・・・今すぐにでもあろうか。今すぐやってくるかもしれない。
なほさりたるものを・・・いっそうまさっているものなのになあ。「なほ」は①やはり、②その上、さらに。ここは②。
さにこそ候ひけれ・・・あなたのおことばどおりでありました。
所を去りて・・・場所をあけて。
ことわり・・・道理。
だれかは思ひよらざらんなれど・・・だれが思いつかないことであろうか、だれだって思いつくことであるが。
折からの・・・おりがおりなので。
胸にあたりけるにや・・・胸にこたえたのであろうか。
木石・・・非常のもの。





公世の二位のせうとに(榎の木の僧正)(第45段)

【冒頭部】
公世の二位のせうとに、良覚僧正と聞こえしは、

【現代語訳】
従二位藤原公世の兄で、良覚僧正と申しあげた方は、とてもおこりっぽい人であったそうだ。(この僧正の住んでいる)寺坊のそばに大きな榎の木があったので、人々は、「榎の木の僧正」と(あだ名をつけて)言ったそうだ。(僧正はそれを)けしからんといって、その木をお切りになってしまわれたそうだ。(ところが)その根が残っていたので、(こんどは人々が)「きりくいの僧正」といったそうだ。(僧正は)ますます腹を立てて、切り株を掘り(取って)捨ててしまったところ、その跡が大きな堀り穴になったので、(さらには人々は、)「堀池の僧正」といったそうだ。

【語句】
聞こえしは・・・申しあげた人は。
腹あしき・・・おこりっぽい。「腹あし」は①意地が悪い、②おこりっぽい、短気である。ここは②。
人なりけり・・・人であったということだ。
しかるべからずとて・・・けしからんといって。「しかるべし」は①適当である、よろしかろう、②その場にふさわしい、時宜をえている、③そうしてよい、そうすることができる。
きりくひ・・・切り杭。
堀にてありければ・・・掘り穴になったので。
堀池・・・掘って作った人工の池。「ほりいけ」とも読む。





応長のころ、伊勢の国より(第50段)

【冒頭部】
応長のころ、伊勢の国より、女の鬼になりたるを

【現代語訳】
応長のころ、伊勢の国から、女が鬼になったのを(だれかが)連れて京都へ来たという(うわさ)があった、そのころ二十日間ほど、毎日京や白川の人々が、鬼を見物するといってさまよい出た。「きのうは(鬼が)西園寺へ参上していたよ、今日は上皇の御所へ参上するだろう、ちょうど今どこどこに(いる)」などと言いあっていた。(鬼を)ほんとうに見たという人もなく、(この話を)うそという人もない。身分の高い人も、低い人も、ただ鬼のことばかり話しつづけている。
そのころ、(ある日、私は)東山から安居院の付近へ行きましたところ、四条から北のほうの人々は、みな北をめざして走っていく。「一条室町に鬼がいる」と大声で騒ぎたてている。今出川のあたりからはるかに見ると、(一条通りの)上皇の御桟敷の付近は、まったく通れそうになく混雑している。(この有様では、鬼の話は)最初から根拠のないことではなさそうだと思って、(私は)人をやって見せると、さっぱり(鬼に)あった者はいない。日が暮れるまでこのように大騒ぎをして、ししまいにはけんかが起こって、あきれかえることなどもあった。そのころ世間一般に二、三日間、人々が病気になるということがありましたのを、あの鬼のうそ話は、この(病気の)前ぶれを示すものであったのだなあという人もあった。

【語句】
応長・・・花園天皇の時の年号。1311・2年
ゐて上りたり・・・つれて上京した。
出でまどふ・・・「まどふ」は、さまよう、うろつく、迷う。
参りたりし・・・参上していたよ。
院・・・上皇・法皇。女院の御所。または上皇・法皇・女院自身をいう語。ここは上皇の御所。
そらごと・・・うそ。根拠のない話。
東山・・・京都の東方、東山付近の称。
安居院・・・安居院聖覚のいた寺。
まかり侍りしに・・・「まかる」は「身分の高い所から退出する」の意だが、ここでは「行く」の意。
四条よりかみさま・・・四条通りより北方。
一条室町・・・東西に走る一条通りと南北に走る室町通りとの交差する付近。
ののしりあへり・・・「ののしる」は大声で騒ぐ。「あふ」はみなが一斉に同じ動作をする意。
今出川・・・一条室町の東。以前は川であったが今はない。
院の御桟敷・・・上皇が賀茂祭を見るために常設されていた桟敷。「桟敷」は見物をために造られた高い床。
通り得べうも・・・通れそうも。
はやく・・・最初から。もともと。
跡なき事・・・根拠のないこと。
見する・・・見させる。
闘諍・・・けんか。
あさましきことども・・・「あさまし」はあまり程度がひどく驚きあきれる。
おしなべて・・・一般に。
このしるし・・・病気のまえぶれ。「しるし」は、ここは「前兆」。
示すなりけり・・・示すものであったのだなあ。





亀山殿の御池に(第51段)

【冒頭部】
亀山殿の御池に、大井川の水をまかせられんとて、

【現代語訳】
御嵯峨院が、亀山離宮のお池に大井川の水をお引きになろうとして、大井の土地の人にお命じになって、水車をお造らせになった。たくさんのかねをお与えになって、数日で(土地の人は)作りあげて、(それを)かけたが、少しもまわらなかったので、いろいろと直したが、とうとうまわらないで(その水車)はなんの役にも立たないで立っていた。そこで、(御嵯峨院は)宇治の人々をお呼びになって、お造らせになったところ、(宇治の里人は、)やすやすと(水車を)組み立ててさしあげた(その水車)が思うとおりにまわって(池に)水をくみ入れることはすばらしかった。何事につけても、その道を心得ている者は、とうといものである。

【語句】
亀山殿・・・京都市右京区嵯峨町にあった離宮。御嵯峨天皇が建てた。
大井川・・・保津川の下流。
まかせられん・・・お引きになろうとして。「まかす」は田や池に水を引く。
土民・・・土着の人民。農民。
仰せて・・・お命じになって。
あし・・・金銭。
給ひて・・・お与えになって。
営み出だして・・・造りあげて。
めぐらざりければ・・・まわらなかったので。「めぐる」は「まわる」。
とかく・・・いろいろと。
いたづらに・・・むなしく。「いたづらなり」は①無益である、②むなしい。
やすらかに・・・やすやすと。
ゆひて・・・組み立てて。「ゆふ」はここは「結びかまえる」意。
参らせたりけるが・・・さしあげたのが。
めでたかりけり・・・すばらしかった。「めでたし」は「すばらしい、りっぱだ」。
よろづに・・・何事につけ。
その道・・・技術の真髄。
やんごとなき・・・尊い。「やんごとなし」は並々でない、高貴だ。





仁和寺にある法師(第52段)

【冒頭部】
仁和寺にある法師、年寄るまで石清水ををがまざりければ、

【現代語訳】
仁和寺にいたある僧が、老年になるまで石清水八幡宮を参拝しなかったので、残念に感じて、ある時、思い立って、ただひとりで歩いて(石清水八幡に)参詣した。(その僧は、石清水八幡の末寺・末社となっている)極楽寺や高良神社などを参拝して(石清水八幡は拝まず)これだけと思いこんで帰ってしまった。さて、(その後)友だちに会って、「長年、心にかけていたことを果たしました。(石清水八幡は)かつて聞いていた以上にとうとくあられました。それにしても、参拝していた人がみな、山へ登ったのは、(山の上に)何かあったのだろうかと、ぜひ見たかったのですが、神へ参拝することが(私の)最初からの目的であると思って、山までは見ませんでした」と言ったそうである。(だから、)ちょっとしたことにも、指導者はあってほしいものである。

【語句】
仁和寺にある法師・・・仁和寺にいたある法師。
石清水・・・石清水八幡宮をいう。
心うく・・・残念に。「心うし」は、つらい、情けない。
徒歩より・・・徒歩で。
かたへの人・・・友だち。仲間。「かたへ」は、そば。
年ごろ・・・長年。
おはしけれ・・・おありになった。
そも・・・それにしても。
ゆかしかりしかど・・・行ってみたかったが。
本意・・・最初からの目的。
先達・・・指導者。案内者。





これも仁和寺の法師(第53段)

【冒頭部】
これも仁和寺の法師、童の法師にならんとする

【現代語訳】
これも仁和寺の法師(の話であるが)、稚児が法師になろうとする別れの会というので、各自(酒など飲んで)遊んだことがあった時に、(酒に)酔って浮かれた結果、(その仁和寺の法師が)そばにある足鼎を取って頭にかぶったところ、(鼻や耳が)つかえるようなのを、押してひらたくして、顔をさしこんで、舞い出たので、その座にいる人々はすべて、この上もなくおもしろがった。しばらく舞って後、(その法師が、鼎を)抜こうとするが、どうしても抜くことができず、酒宴もおもしろくなくなって、(みなは)どうしようと途方にくれてしまった。(鼎を抜こうとみなが、)あれこれすると、(その法師の)首のまわりは傷ついて血がたれ、ただひどく腫れあがって(きて、そのため)息もつまってきたので、(鼎を)うち破ろうとするけれど、容易に破れない。(破ろうとしてたたく音が、鼎の中の法師の頭に)響いてがまんできなかったので、なんともしようがなくて、(鼎の)三本足の角の上に帷子をかけて、手をひき、杖をつかせて、京都にいる医者のもとへつれていった。その道々、人々が奇妙に思って見ることといったらこの上ない。医者の所へはいって、(その法師が)医者と向かいあってすわっていたと思われる有様は、さぞかし奇妙なようすであったろう。(法師が)ものを言っても、(鼎の)内にこもった、はっきりしない声で、響いて、聞こえない。(医者が)「こういうことは医者にも見あたらないし、(昔の人の)伝えた教えもない」と言うので、また仁和寺へ帰って、親しい者や、年とった母などが、(その法師の寝ている)枕もとに寄り集まって泣き悲しむのだが、(本人は)聞いているようにも思われない。こうしているうちに、ある者がいうには、「たとえ、耳や鼻がちぎれてなくなっても、命だけはどうして助からないことがあろうか、助かるはずだ。ただ、力を入れて(鼎を)お引きなさい」と言うので、わらのしんを(鼎の)まわりにさし込んで、顔と鼎のかねとを離して首もちぎれるほどに引いたところが、耳や鼻がとれて(そのあとに)穴があきながら(鼎は)抜けてしまった。(もう少しで死ぬところの)あやうい命を拾って、長い間、病みふしていたということであった。

【語句】
名残りとて・・・別れの会といって。「名残り」は①余情、②残り、③別れ。ここは③。
かたはらなる・・・そばにある。
かづきたれば・・・かぶったところ。
おしひらめて・・・押してひらたくして。
かぎりなし・・・この上ない。
かなでて・・・舞いを舞って。「かなで」は、①音楽を演奏する。②手足を動かし舞う。ここは②。
ことさめて・・・おもしろくなくなって。
まどひけり・・・途方にくれてしまった。
かけて・・・傷ついて。
かなはで・・・目的をはたせないで。「かなふ」は思いどおりになる。
ゐて・・・つれて。
ことやう・・・異様。奇妙。
などか・・・どうして。
まうけて・・・助かって。「まうく」は、①利益を得る。②拾い取る。ここは「助かる」意。





家の造りやうは(第55段)

【冒頭部】
家の造りやうは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる

【現代語訳】
家の造り方は、夏を主とするがよい。冬はどんな所にも住むことができる。(夏本位を忘れて建て)暑いころに、具合の悪い住居は、がまんできないことである。
(庭に作る池などでは)深い水は涼しい感じがない。(遣水などが)浅くて流れているのは、(深いのより)ずっと涼しい(感じがする)。(字などの)こまかなものを見るのに引き戸(の部屋)は、蔀の部屋より明るい。天井の高いのは、冬寒くて、灯火が暗い。建築は、(ふだん使う目的が決まっていずに、)使わない所を造ってあるのが見たところおもしろいし、いろいろの役に立ってよいと、人々が議論しあったことであります。

【語句】
造りやう・・・造り方。「やう」は様式。
むねとすべし・・・主とするのがよい。「むね」は、もっぱらとする。重点をおく。
たへがたき事・・・がまんできないこと。
あかし・・・明るい。









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